試しに代表的な青空文庫リーダー4種(bREADER、i文庫S、SkyBook、豊平文庫)とi文庫Sの旧バージョンであるi文庫、音声読み上げ用の金沢文庫で表示させてみると、予想以上に見え方の違いが大きかった。
リーダーによる見え方の違いのサンプルとして残しておこう。
●bREADER バージョン1.2.7 (更新2011/07/29)
まずは常用しているbREADERからいこう。
半角英字がきれいに横になっている。句読点も含めて行末が揃うのはbREADERだけだ。長音符(ー)が行頭に来ているが、設定で禁則処理の対象にすることもできる。他のアプリでよくある大扉(本の最初に設けられた署名や著者名を示す最初のページのこと)は自動生成されない。bREADER作者の趣味なのだろうか。右上の時刻表示はその上をワンタップするとオンオフできる。
三点リーダ(……)は商業出版物では分離禁止対象だが、bREADERでは禁止になっていない。bREADER作者に問い合わせたことがあるが、『ドグラ・マグラ』のように三点リーダの頻出する作品の処理が難しくなるためらしい。設定でオンオフできるといいのだが。
傍点(黒ゴマ)が正しく表示されている。
句点(。)と閉じ鉤括弧(」)が連続した時の字詰めが調整されている。最近の出版物では閉じ鉤括弧の前の句点を省略することが多いが、省略しなくても間違いではない。
デフォルトのフォントでは二倍ダーシ(――)がつながって表示されている。元々活版印刷の時代にはつながった活字だったため、分離禁止文字だったが、bREADERでは三点リーダと同様に分離禁止ではない。
コロン(:)が適切に表示されている。2桁までの半角数字は縦中横で立てて表示される。3桁以上の半角数字は横倒しになる。
三点リーダや二倍ダーシの分離禁止オプションが欲しいところだが、それ以外は最も日本語の組版ルール(商業出版物が準拠している文字組のルール)に添っている。本物の文庫本にかなり近い。
●i文庫S バージョン1.04 (更新2011/06/05)
次は、iPhoneの青空文庫リーダーの代名詞とも言える高い知名度を持つi文庫の新版(iPad版のi文庫HDの逆移植バージョン)であるi文庫Sだ。
いかにも文庫本っぽい大扉が自動生成される。スクリーンショットでは分からないが、めくりのトランジション(画面切替効果)はi文庫Sが最も自然だ。
半角の英字は横倒しにするかどうか選べるが、どういうわけか全て全角英字になってしまう。あまり読みやすいとは言いがたい。なぜこんな処理をしているのだろう? 文字詰めの処理を簡略化するためだろうか。
長音符は行頭禁則の対象になっていない。禁則の対象にする設定もない。
傍点(黒ゴマ)は正しく表示されている。
句点(。)と閉じ鉤括弧(」)が連続した時の字詰めが調整されている。ところが、読点(、)と開き鉤括弧(「)が連続した時の字詰めは調整されない。後者の方が最近はよく使われるパターンだと思うのだが。
デフォルトのフォントでは二倍ダーシがつながって表示されている。この版面では分からないが、三点リーダや二倍ダーシは分離禁止文字ではない。
コロンは立ったままだ。半角数字は自動的に全角に変換されてしまう。回転するかどうかは設定で指定できる。縦中横の処理はない。
二倍ダーシや傍点の処理は適切だが、半角英数字の処理など詰めが甘い。
2011/12/07 20:20追記
バージョン2.1.0で半角英数字の扱いが改善された。表示例はこちら。
●i文庫 バージョン 2.70 (更新2010/12/21)
すでに旧バージョンになってアップデートもないが、既存のユーザは多いはずなので、比較のためにi文庫でも試してみた。
やはり大扉が自動生成される。めくりではなくスライド式のページ移動だ。
半角英字は横倒しにするかどうか選べるが、横倒しにすると半角のまま全角の文字送りで表示される。i文庫Sよりひどい。
長音符は行頭禁則の対象になっていない。禁則の対象にする設定もない。これはi文庫Sと同様だ。
傍点(黒ゴマ)は正しく表示されている。
句点(。)と閉じ鉤括弧(」)が連続した時の字詰めは調整されていない。
二倍ダーシが途中で途切れてしまっている。
コロンは立ったままだ。半角数字を回転するかどうかは設定で指定できる。回転させない方がマシなようだ。
比較してみると、i文庫Sは少しだけ進歩していたのだなと分かる。期待ほどではなかったが。
●SkyBook バージョン2.8.11 (更新2011/07/30)
次は、値下げセールのおかげか仕事効率化ランキングでも順位が上昇しているSkyBookだ。
SkyBookでも、それらしい大扉が自動生成される。ページめくりのアニメーションはできるが、どこでめくっても左下からめくれるためあまり自然ではない。
半角英字は横倒しで表示されるが、プロポーショナルフォントではない。全角と半角で別々にフォントを指定する設定がないせいだろうか。また、半角の文字数が奇数なのに、文字送りを調整していないため、行末が凸凹になっている。
長音符は行頭禁則の対象になっていない。禁則の対象にする設定もない。三点リーダは分離禁止になっているが、行末を揃えないため前の行末が1文字分不自然に空いている。
傍点(黒ゴマ)は正しく表示されている。
句点(。)と閉じ鉤括弧(」)が連続した時の字詰めが調整されている。
2011/08/15 08:10訂正
読点(、)と開き鉤括弧(「)が連続した時に字詰めが調整されないというのは間違いだった。二分(半角)空きになるように調整される。ただし、行末は揃えられないため、その分引っ込んで見えてしまう。
2011/09/07 13:00追記
バージョン2.8.12で行末揃えが実装され、禁則処理を施しても行末が凸凹にならなくなった。バージョン2.8.12での表示例はこちら。
コロンは適切に寝ている。半角数字は2文字の場合に限って縦中横の処理が施されるようだ。1文字の場合に寝ているのは違和感がある。
●豊平文庫 バージョン1.9.13 (更新2011/07/23)
豊平文庫は他のアプリとは違って、純粋な青空文庫専用のリーダーだ。独自のテキストを読み込む機能はない。その代わりに初期設定など操作は比較的分かりやすくなっている。
大扉はない。半角英字は立ったままだ。これは見栄えがよくない。
長音符が禁則処理の対象になるのはよいとして、行末にぶら下げられるのはいかがなものか? 黎明期のワープロ専用機を見るようだ。
傍点(黒ゴマ)が表示されない。傍点は強調の意味で使われる。表示されないのでは著者の意図が再現できないのではないだろうか。
句点(。)と閉じ鉤括弧(」)が連続した時の字詰めは調整されていない。二倍ダーシも途中で途切れてしまっている。
コロンは立ったままだ。半角数字も英字と同様に立ったまま表示される。
傍点や長音符の処理など問題が多い。起動時のスプラッシュは本物の文庫本に似ているのに、中身は文庫本を研究しているとは言いがたい。
2011/09/15 23:30追記
バージョン1.9.15で傍点などに対応している。再度『長崎の鐘』を表示させた例はこちら。
2011/10/13 00:50追記
バージョン1.9.17では長音符が行末にぶら下がらなくなり、二倍ダーシもつながるようになった。再度『長崎の鐘』を表示させた例はこちら。
●金沢文庫 バージョン1.0.4 (更新2011/08/05)
金沢文庫は「読む」ためというより「読み上げさせる」ためのリーダーの性格が強い。
したがって画面表示の比重は低いのだが、一応比較のために取り上げる。
大扉はない。半角英字は立ったまま表示される。めくりのアニメーションはなく、ページがスライドする。たまに引っかかる。目立ちすぎる書名、不自然に空いた余白、20文字が最少でその次の刻みは25文字になるという文字詰めの自由度の低さに目を覆いたくなる。
一応句読点の禁則処理はされてるが、長音のフォントが横書きのものを単純に寝かせただけで、ひどく不自然だ。
傍点は表示されない。読み上げるのならあってもなくても同じかもしれないが、傍点のところだけ強調する読み方にする配慮があってもいいのではないだろうか。
句点(。)と閉じ鉤括弧(」)が連続した時の字詰めは調整されていない。
二倍ダーシも途中で途切れてしまっている。
コロンも半角数字は立ったまま表示される。
金沢文庫はユーザインタフェースも論外のレベルだが、表示もiPhoneアプリとは思えないほどひどい。ユーザエクスペリエンスどころの騒ぎではない。音声読み上げ機能とそれに付随する機能以外は劣悪だ。